弁護士、司法書士、社会保険労務士、税理士などの士業事務所では、一般的な事業者と共通する経理に加えて、士業ならではの処理で迷うことがあります。
特に詰まりやすいのが、次の4つです。
- 報酬から源泉徴収される場合の処理
- 依頼者のために支払った実費や立替金の管理
- 請求から入金までのタイミングと売掛金の管理
- スタッフを採用した後の給与・源泉徴収・年末調整
一つひとつは難しくなくても、処理方法が決まっていないと、請求・入金・会計ソフト・決算時の確認がつながらなくなります。
この記事では、士業事務所の経理でよく詰まる4つの場面と、日々の運用を整える考え方を整理します。
1. 報酬の源泉徴収で請求額と入金額が合わない
士業の報酬には、源泉所得税の対象になるものがあります。
ただし、「士業への支払いならすべて源泉徴収する」というわけではありません。
弁護士や税理士など一定の専門家への報酬は源泉徴収の対象になりますが、業種や業務内容によって取扱いが異なります。また、支払者側が源泉徴収義務者に当たるかどうかも確認する必要があります。
そのため、まず確認したいのは、
- どの業務に対する報酬なのか
- 誰から報酬を受け取るのか
- その支払者に源泉徴収義務があるのか
- 請求書上で報酬と消費税をどのように表示するのか
といった点です。
請求額と入金額を別物にしない
例えば、報酬100,000円を請求し、源泉所得税が差し引かれて入金された場合でも、売上そのものが差引後の入金額になるわけではありません。
報酬として計上する金額と、源泉徴収された金額を分けて管理する必要があります。
この区分が曖昧だと、
- 売上が実際より少なく見える
- 売掛金が消し込めない
- 確定申告時に源泉徴収税額を集計し直す
といった問題につながります。
会計ソフトでどの勘定科目を使うかは、個人事業か法人か、現在の経理方法によっても異なります。大切なのは、請求額・入金額・源泉徴収額の関係が後から追える状態にしておくことです。
支払調書を前提に管理しない
報酬を支払った事業者から支払調書を受け取ることがありますが、支払調書は必ず本人へ交付される書類ではありません。
そのため、年明けに支払調書が届いてから一年分を整理するのではなく、日々の請求・入金の段階で源泉徴収税額を管理しておく方が確実です。
2. 実費立替と事務所自身の経費が混ざる
士業の仕事では、依頼者に代わって一時的に支払いを行う場面があります。
例えば、登録免許税、各種手数料、郵送費、交通費などです。
ここで重要なのは、「実費」という名前だけで一律に処理しないことです。
誰のための支出なのかを先に整理する
同じ支払いでも、
- 依頼者が本来負担するものを事務所が一時的に立て替えた
- 事務所自身の業務遂行のために支出した
では、経理上の考え方が異なります。
依頼者負担のものを一時的に支払っているのであれば、立替金として管理する方法があります。
一方、事務所自身の経費として支払い、その費用を含めて依頼者へ請求している場合は、売上・経費として処理することもあります。
消費税の取扱いも含め、実際の契約関係や支払いの内容によって判断する必要があります。
一番困るのは「誰の立替金かわからない」状態
立替金で特に問題になりやすいのが、残高だけが会計ソフトに残っている状態です。
例えば、
- どの依頼者の立替金なのかわからない
- すでに請求したのか確認できない
- 入金されたのに立替金が消し込まれていない
- 何年も前の残高が残っている
といったケースです。
これを防ぐためには、必要に応じて取引先別の補助科目や管理表を利用し、
支払う → 請求する → 回収する → 消し込む
という流れを一つにつなげておくことが重要です。
3. 請求した金額と売掛金の残高が合わない
士業事務所では、業務内容によって請求タイミングが変わります。
- 毎月の顧問料
- 業務完了後の一括請求
- 着手時と完了時に分ける請求
- 成功報酬を含む契約
取引ごとに請求方法が違うこと自体は問題ありません。
問題になるのは、請求・会計・入金確認を別々に管理している場合です。
請求書を出しただけでは管理は終わらない
請求書を発行したら、その後に、
- 会計上どの時点で売上として計上するのか
- 売掛金としていくら残っているのか
- いつ入金されたのか
- 源泉徴収された場合の差額をどう処理するのか
- 立替金を一緒に請求している場合にどう消し込むのか
までつながっている必要があります。
請求書を発行した日、実際に業務を行った日、入金された日は必ずしも同じではありません。
そのため、単純に「入金された日を売上にする」と決めるのではなく、契約内容や業務の実態に応じて処理を整理します。
着手金・前受金も混ざりやすい
業務の開始前に金銭を受け取る場合、その全額が受け取った時点で売上になるとは限りません。
前受金として管理し、業務の進行や契約内容に応じて売上へ振り替えるケースもあります。
ここも、請求書だけを見て処理するのではなく、契約と実際の業務がどこまで進んでいるかを確認することが重要です。
月次では売掛金の「中身」を見る
月末に売掛金の残高を見るときは、合計金額だけでは十分ではありません。
- どの依頼者のものか
- いつ請求したものか
- 入金予定日はいつか
- すでに入金済みなのに消し込まれていないものがないか
まで確認できるようにしておくと、未回収と経理上の処理漏れを区別しやすくなります。
4. スタッフを採用すると給与まわりの実務が一気に増える
一人で運営していた士業事務所がスタッフを採用すると、経理以外のバックオフィス業務も一気に増えます。
例えば、
- 給与計算
- 給与からの所得税の源泉徴収
- 住民税の対応
- 社会保険・労働保険の手続き
- 年末調整
- 源泉徴収票や給与支払報告書などの作成
です。
「スタッフが一人増えただけ」と考えていると、この周辺事務の多さに驚くことがあります。
最初に必要な情報を揃える
給与計算を始めるときは、給与額だけではなく、
- 雇用開始日
- 給与の締日・支給日
- 扶養控除等申告書
- 社会保険・雇用保険の加入状況
- 住民税の徴収方法
などを整理しておく必要があります。
給与所得者の扶養控除等申告書を提出しているかどうかは、給与から源泉徴収する所得税の計算方法にも関係します。
年末調整は12月だけの仕事ではない
年末調整そのものは年末に行いますが、実際には日々の給与計算や従業員情報の管理が正しくできていることが前提になります。
年末になってから、
- 扶養情報が更新されていない
- 給与データが合わない
- 前職の源泉徴収票がない
- 必要書類が回収できていない
といった問題に気付くと、短期間で確認作業が集中します。
そのため、スタッフを採用した時点で給与・源泉徴収・年末調整までを一つの流れとして設計しておく方が負担を減らせます。
社会保険は「士業だから5人未満なら不要」と単純には判断しない
社会保険への加入は、法人か個人事業所か、従業員数、働き方などによって取扱いが変わります。
士業の個人事業所についても、一定の要件を満たす場合には健康保険・厚生年金保険の適用対象となります。
採用時には、給与計算だけでなく、社会保険・労働保険を含めて必要な手続きを確認しておくことが大切です。
4つの詰まり所に共通する原因
ここまでの4つは別々の問題に見えますが、実務では共通する原因があります。
それは、「処理方法は分かっているが、その後の確認までつながっていない」ことです。
例えば、
- 源泉徴収は処理したが、年間の源泉徴収税額を集計できない
- 立替金を計上したが、回収・消込まで管理していない
- 請求書は発行しているが、売掛金残高と照合していない
- 給与計算はしているが、年末調整のための情報管理が別になっている
という状態です。
経理を楽にするためには、一つの仕訳を早く入力することより、
発生 → 記録 → 回収・支払 → 残高確認 → 申告
までを一つの流れとして考える方が効果的です。
士業事務所の経理を整えるときのポイント
取引先別に管理すべきものを決める
売掛金や立替金など、依頼者ごとの残高確認が必要なものは、取引先別に追えるようにします。
ただし、何でも細かく分ければよいわけではありません。後から確認する必要がある情報だけを管理対象にします。
請求と会計を分断しない
請求書を作るシステムと会計ソフトが別でも構いません。
重要なのは、請求した内容と会計上の売掛金、実際の入金が照合できることです。
月次で残高を見る
仕訳だけを確認するのではなく、
- 売掛金
- 立替金
- 前受金
- 預り金
などの残高に古いものや説明できないものが残っていないかを確認します。
この確認ができていると、決算になってから一年分を調べ直す負担を減らせます。
スタッフ採用前にバックオフィスを決める
採用してから給与計算の方法を考えるのではなく、
- 勤怠をどう集めるか
- 給与をどう計算するか
- 給与明細をどう渡すか
- 税金・社会保険の手続きを誰が行うか
まで先に決めておくと、その後の運用が安定します。
山川喜彰税理士事務所では士業事務所の経理もご相談いただけます
山川喜彰税理士事務所では、小規模事業者・小規模法人のほか、士業事務所の会計・税務・経理についてもご相談いただけます。
士業事務所では、単に申告書を作るだけではなく、
- 報酬と源泉徴収の管理
- 実費・立替金の管理
- 請求・売掛金の管理
- クラウド会計の運用
- 給与計算・年末調整
など、日々のバックオフィスをどのように回すかが重要になります。
現在の方法をすべて変えることを前提にせず、「どこで詰まっているのか」を確認しながら必要な部分から整理します。
まとめ
- 士業の経理では、源泉徴収・立替金・請求管理・給与関係で処理が複雑になりやすい
- 源泉徴収は士業名だけでなく、業務内容や支払者の状況も含めて確認する
- 立替金は「誰のための支出か」を明確にし、回収・消込まで管理する
- 請求書を発行するだけでなく、売掛金と入金までつなげて確認する
- スタッフを採用したら、給与・源泉徴収・社会保険・年末調整まで一連の流れとして考える
- 経理は仕訳入力だけでなく、残高確認まで設計することが重要
士業事務所の経理を整理したい方へ
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現在どこで詰まっているのかを確認しながら、必要な部分から整理します。
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