社長が会社の支払いを立て替えたり、会社の口座から社長個人の支払いが出たりしているうちに、試算表の「役員借入金」や「役員貸付金」の残高が少しずつ増えていく。ひとり社長や少人数の会社では、よくあることです。
残高があること自体がすぐに問題になるわけではありません。ただ、中身が説明できないまま増え続けると、会社の本当のお金の動きが見えにくくなり、決算のときにまとめて確認し直すことになります。
この記事では、会社と個人のお金を「どう分けるか」ではなく、すでに出ている役員借入金・役員貸付金の残高を、毎月どう確認し、どう整理していくかをお伝えします。分け方の考え方は「法人の口座と社長個人のお金が混ざると何が困る?」にまとめています。
結論:毎月「増えた理由」と「減った理由」を1行ずつ説明できる状態にする
- 残高の大きさより、その月に増えた・減った理由が説明できるかを見る
- 役員借入金と役員貸付金が同時に残っていないかを確認する
- 社長に返す予定の立替分は、返すタイミングを決めて定期的に精算する
- 役員貸付金が続く場合は、支払いの流れや役員報酬の決め方まで含めて見直す
役員借入金と役員貸付金のおさらい
- 役員借入金:会社が社長からお金を借りている状態。社長が会社の支払いを立て替えた、社長が会社にお金を入れた、などで増えます
- 役員貸付金:会社が社長にお金を貸している状態。会社のお金を社長個人の支払いに使った、などで増えます
どちらも、会社と社長の間の「貸し借り」の記録です。売上や経費とは別の動きなので、ここが毎月動くと、預金が減った理由が本業によるものなのか、社長との貸し借りによるものなのかが、試算表だけでは分かりにくくなります。
毎月確認する順番
残高の推移を月ごとに並べる
まず、役員借入金・役員貸付金の月末残高を、期首から月ごとに並べます。会計ソフトの推移表で十分です。
- 急に増えた月、急に減った月はないか
- 毎月少しずつ一方向に増え続けていないか
ここで「動いた月」に印をつけておくと、次の確認が早くなります。
動いた月の元帳を1件ずつ見る
印をつけた月の元帳(その科目の取引一覧)を開き、1件ずつ「何のお金か」を確認します。
- 社長が立て替えた会社の経費なのか
- 社長が会社に入れた資金なのか
- 会社から社長個人の支払いに出たお金なのか
- 立替分や借入分を社長に返したお金なのか
摘要やメモで分からないものは、その月のうちに社長に確認します。数か月たつと、本人も思い出せなくなります。
1件ずつの確認とあわせて、相手側の記録とも照らします。社長が会社の支払いを立て替えたなら、社長個人のカード明細やレシートに同じ日付・金額があるか。社長が会社にお金を入れた・返してもらったなら、社長個人の通帳に同じ金額の出入りがあるか。会社の帳簿の月末残高が、社長が把握している「会社に貸している額(借りている額)」と一致しているかも、ときどき確かめておくと安心です。
借入金と貸付金が両方残っていないかを見る
社長が会社に貸しているお金(役員借入金)が残っているのに、会社から社長への出金を「役員貸付金」で記録していることがあります。
社長への出金が、実際には「以前に立て替えた分・貸した分を返してもらった」ものであれば、役員借入金を減らす記録になります。役員借入金の残高がある状態で社長へお金が出たときは、まず返済として扱えるものかを確認するという順番で見ると、同じ相手に対して借りと貸しが両方残る状態を防ぎやすくなります。
どちらで記録するかは、実際にどういう約束でお金を動かしたかで決まります。迷うものは、処理を決める前に税理士に確認してください。
立替分は「返す予定の金額」として分けておく
社長が立て替えた経費は、未払金などの科目で「社長に返すべき金額」として分かるようにしておき、給与の振込などと同じタイミングで定期的に精算します(詳しくは「法人の口座と社長個人のお金が混ざると何が困る?」)。
立替分と、社長が資金繰りのために会社へ入れたお金を同じ科目に混ぜてしまうと、あとで「どれが近いうちに返すお金なのか」が分からなくなります。立替分は精算まで、資金として入れたお金は返済の予定まで、分けて見られる形にしておきます。
よくあるつまずき
社長個人のカードで毎月サブスクを払っている
毎月の立替が自動的に発生し、役員借入金(または未払金)が毎月増えます。法人カードに切り替えると、立替そのものが減ります。法人カードの始め方は「法人カードを作った最初の月に決めておくこと」をご覧ください。
役員貸付金が毎月少しずつ増えていく
会社のお金で個人的な支払いをする流れが続いていると、役員貸付金が増えていきます。役員報酬の金額や支給日が生活費の流れと合っていないことが、背景にある場合もあります。役員報酬の決め方は「役員報酬(社長の給料)のルール」「初めて自分に役員報酬を払う前に」もあわせてご覧ください。
役員貸付金を無利息のままにしている
会社が役員にお金を貸して、利息を受け取っていない、または低い利率にしている場合、国税庁の案内では、所定の利率で計算した利息と実際の利息との差額が、役員への給与として課税されることがあるとされています(災害・病気などで臨時に必要になった場合や、差額が年5,000円以下の場合など、課税されない場合もあります)。
会社側でも、法人税の計算では、無償での取引も収益の対象になるという考え方(法人税法22条2項)があるため、利息を受け取っていない貸付について、受取利息に相当する金額が問題になることがあります。ただし、会社側・社長側それぞれでどう扱うかは、貸付の経緯や金額、利率によって変わります。役員貸付金が一時的でなく残っている場合は、個別に確認が必要です。
決算のときにまとめて確認しようとする
1年分をまとめて確認すると、1件ずつ用途を思い出す作業になります。毎月、動いた分だけを確認するほうが、結果として手間は少なくなります。
山川事務所ではどこまで支援するか
- 月次の確認では、役員借入金・役員貸付金の残高についても、増減の理由が説明できる状態かどうかを見ています
- すでに会社と個人のお金が混ざっている会社を引き受けた場合は、役員借入金・役員貸付金の元帳を確認し、増えた理由・減った理由を一つずつ整理するところから始めます
- 社長への貸付が続く状態にならないよう、必要に応じて役員報酬の決め方も含めて、会社と社長の間のお金の流れを確認しています
- 立替か、資金として入れたお金か、返済かは、社長のメモや資料がないと決められません。動きの理由が分からない取引は、事務所側で推測して振り分けることはせず、月次の確認の中で社長にお尋ねします。見つけるたびに細切れにお聞きするのではなく、できる範囲でまとめて確認するようにしています(連絡の手段は会社ごとに異なります)
お客様側で入力していただいた内容も、月次の確認で科目や残高に修正が必要なものがあれば、事務所側で修正または確認します。これらは税務顧問の月次の確認の範囲で行います。記帳(入力)までお任せいただく場合は、記帳代行(別料金)としてご案内しています。
過去の期にさかのぼって貸し借りを一から整理し直す、長い期間の残高を調べて帳簿を修正する、といった作業は、通常の月次の確認とは分けて考えます。この場合は作業量を確認したうえで、対応する範囲と料金を個別にご案内します。
まとめ
- 役員借入金・役員貸付金は、残高の大きさより「毎月の増減の理由」を見る
- 推移表で動いた月を探し、その月の元帳を1件ずつ確認する
- 借入金が残っているのに貸付金が増えていないかを確認する
- 立替分は返す予定の金額として分け、定期的に精算する
- 役員貸付金が続く場合は、支払いの流れや役員報酬まで含めて見直す
社長と会社の貸し借りは、毎月少しずつ確認していけば、決算で慌てずに済みます。
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