給与を払うときに差し引いた源泉所得税や社会保険料は、会社がいったん預かって、あとで国や年金事務所などに納めます。会計ソフトでは、この「預かっているお金」を預り金という科目で記録します。
本来なら、差し引いた額が預り金に増え、納めた額が減って、残高は「まだ納めていない額」になるはずです。ところが試算表を見ると、預り金がマイナスになっている、何か月分もたまったままになっている、ということがよくあります。
この記事では、預り金の残高がずれる主な原因と、毎月どの順番で確認すればよいかをお伝えします。
結論:預り金を中身ごとに分けて、「差し引いた額」と「納めた額」を月ごとに並べる
- 預り金は、源泉所得税・住民税・社会保険料など、中身ごとに分けて管理する
- 中身ごとに「給与から差し引いた額」と「納めた額」を月別に並べると、ずれた月が分かる
- 残高が残ること自体は、納付の時期によっては正常な場合がある
- マイナスの残高は、会社負担分まで預り金から落としているなど、記録の誤りのことが多い
預り金に入る主なもの
- 源泉所得税:給与・賞与・役員報酬から差し引いたもの。税理士などの報酬から差し引いたものも含まれます
- 住民税(特別徴収):給与から差し引いて、市区町村に納めるもの
- 社会保険料:健康保険・厚生年金保険などの本人負担分
これらを一つの「預り金」にまとめて記録していると、どれがずれているのかが分からなくなります。補助科目などで中身ごとに分けておくのが第一歩です。
「残っていて正常」な場合を先に押さえる
源泉所得税:納期の特例を使っている場合
源泉所得税は、原則として給与などを支払った月の翌月10日までに納めます。ただし、給与の支給人員が常時10人未満の会社は、承認を受ければ、1月〜6月分を7月10日まで、7月〜12月分を翌年1月20日までにまとめて納める「納期の特例」を使えます。
特例を使っている会社では、半年分の源泉所得税が預り金にたまっていくのが正常です。対象は給与・退職金と、税理士・弁護士・司法書士などの一定の報酬から差し引いたものに限られるため、対象外の報酬は毎月の納付になります。設立直後の注意点は「設立後最初の源泉徴収に注意」をご覧ください。
社会保険料:差し引く月と納める月がずれる
社会保険料の納付期限は、対象となる月の翌月末日です(例:4月分は5月末日)。給与からは、当月に支払う給与から前月分の保険料を差し引くことができ、たとえば5月の給与で4月分を差し引きます。
この形であれば、5月に差し引いた4月分を5月末に納めるので、月末時点では本人負担分の残高はおおむね0になります。一方、当月分を当月の給与から差し引いている会社では、納めるのは翌月末なので、1か月分が残るのが正常です。自社がどちらの形で差し引いているかを、給与計算の設定で確認しておきます。
ずれる主な原因
納付した総額を、全部預り金から落としている
社会保険料の納付額には、本人負担分と会社負担分の両方が含まれます。納付額の全額を預り金から落とすと、会社負担分の分だけ預り金がマイナスになります。会社負担分は法定福利費などの費用として記録します。
給与計算ソフトからの仕訳と、実際の差引額が合っていない
給与計算ソフトと会計ソフトを連携している場合、連携された仕訳の科目や金額が、実際の給与明細と合っているかを確認します。給与の確定をやり直したときに、仕訳が二重になったり、古いままになったりすることがあります。
賞与・入退社・保険料の変更月
- 賞与からも源泉所得税・社会保険料を差し引きます。賞与の月だけ納付額が変わります
- 入社・退職の月は、保険料を差し引く月数が変わることがあります
- 標準報酬月額や保険料率が変わった月は、差し引く額と納める額がずれやすくなります
年末調整の還付・追加の徴収
年末調整で還付や追加の徴収があると、その月の源泉所得税の差引額が普段と変わります。年末調整の流れは「ひとり社長の会社の年末調整」をご覧ください。
納付の記録が別の科目になっている
口座から引き落とされた納付を、租税公課や法定福利費で記録していると、預り金が減らずに残り続けます。
毎月確認する順番
預り金を中身ごとの残高にする
補助科目などで、源泉所得税・住民税・社会保険料ごとの月末残高を出します。
中身ごとに「差し引いた額」と「納めた額」を月別に並べる
給与明細(または給与台帳)の差引額と、納付書・領収証書・引落しの記録の納付額を、月別に並べます。「どの月からずれ始めたか」が分かれば、原因の取引はその月の前後にあります。
あるべき残高と比べる
納期の特例の有無、社会保険料を差し引く月の形から、月末に残っているはずの額を出して、実際の残高と比べます。
ずれた月の仕訳を直す
原因が分かったら、ずれた月の仕訳を直します。過去の期にさかのぼるずれは、直し方を税理士と相談して決めます。
預金の残高が合わないときの確認の順番は「会計ソフトの預金残高が通帳と合わないとき」にまとめています。考え方は同じで、ずれ始めた月を探すところから始めます。
よくあるつまずき
- 預り金を一つの科目にまとめていて、どれがずれているか分からない
- 社会保険料の納付額を全額預り金から落として、マイナスになっている
- 納期の特例を使っているのに、毎月納付していると思い込んでいる(または、その逆)
- 給与計算の確定をやり直したあと、会計ソフト側の仕訳を直していない
山川事務所ではどこまで支援するか
- 税務顧問の月次の確認では、試算表の負債側の科目として預り金を確認しています。預り金は、給与の源泉所得税・報酬の源泉所得税・住民税・社会保険料などの中身ごとに内訳が分かるかを見ています
- 残高が前月から大きく動いている場合は、その理由が分かるかを確認します。ずれの理由は給与明細・納付書などの資料で確かめるため、資料の共有をお願いしています。差額を事務所側の推測で振り替えて合わせることはしません
- 給与計算は別料金のオプション(月10,000円〜・3名まで)、年末調整も別料金です
- 社会保険の手続きは、税理士業務の範囲外です
- 月次の確認は、その月の数字を見るものです。預り金のずれが過去の期や長い期間にわたっていて、残高の調査や帳簿の修正が必要な場合は、通常の月次の確認とは分けて、作業量を確認したうえで、個別に対応範囲・料金をご案内します
初めて役員報酬を払うときの給与計算の設定は「初めて自分に役員報酬を払う前に」をご覧ください。
まとめ
- 預り金は、源泉所得税・住民税・社会保険料など、中身ごとに分けて管理する
- 納期の特例や社会保険料の差し引き方によっては、残高が残るのが正常
- マイナスは、会社負担分まで預り金から落としていることが多い
- 中身ごとに「差し引いた額」と「納めた額」を月別に並べ、ずれ始めた月を探す
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