法人化すると、会社のお金と社長個人のお金は別のものになります。
ただ、ひとり社長や少人数の会社では、社長が自分のカードで会社の支払いをしたり、会社の口座から個人的な支払いが出ていったりと、気づかないうちに両方が混ざっていることがあります。
この記事では、会社と個人のお金が混ざると何が困るのか、どう分けておくとよいのかを、実務の目線でお伝えします。
結論:分けておくのは「あとで説明できる状態」にするため
会社と個人のお金を分けておく理由は、帳簿をきれいにするためだけではありません。
- その支出が会社の経費なのか、あとから説明できる
- 会社のお金の動きが、毎月の数字にそのまま表れる
- 決算のときに、一つひとつ用途を確認し直す手間が減る
分け方のポイントは、立替精算そのものを減らすことと、立て替えた分をあとから追える形にしておくことの2つです。
混ざりやすいのは、立替で経費を計上することが多い会社
会社の支払いを社長が立て替えて、あとから経費として計上する。この形が多い会社ほど、会社と個人のお金は混ざりやすくなると感じています。
立替が増えるほど、「この支払いは会社のものか、個人のものか」を後から見分ける場面が増えるためです。
立替そのものが問題なのではなく、会社の経費と社長個人の支出を区別できる状態にしておくことが大切です。そのうえで、法人カードを使って立替自体を減らしておくと、区別がずっとしやすくなります(具体的な分け方は後ほどお伝えします)。
法人化したばかりの会社でも、法人化して数年たった会社でも、混ざることはあります。違いが出るのは、法人化したタイミングで経理のルールを決めていたかどうかです。最初に「会社の支払いはこうする」と決めている会社のほうが、混ざりにくくなります。
なぜ分けておいた方がいいのか
経費かどうかの説明がしにくくなる
会社の口座やカードから出ていったお金は、会社の帳簿に記録されます。
そこに個人的な支払いが混ざっていると、どれが会社の経費で、どれがそうでないのかを、あとから説明しなければなりません。
また、個人的な支出が会社の経費に混ざっている場合、事実関係によっては、役員給与などとして扱われる可能性があります。そうならないためにも、そもそも混ざらない形にしておくことが大切です。
社長と会社の貸し借りが増えて、数字が読みにくくなる
会社と個人のお金が行き来すると、帳簿には次のような科目が出てきます。
- 役員借入金:会社が社長からお金を借りている状態(社長が会社の支払いを立て替えた場合など)
- 役員貸付金:会社が社長にお金を貸している状態(会社のお金を社長個人の支払いに使った場合など)
たとえば預金残高が減っていても、それが売上の入金や経費の支払いといった会社本来のお金の動きによるものなのか、社長との貸し借りによるものなのかが、試算表を見ただけでは分かりにくくなります。
こうした貸し借りが毎月のように増えたり減ったりすると、会社の資金の状況を正しく読み取りにくくなります。
当事務所では、社長への貸付が続く状態にならないよう、必要に応じて役員報酬の決め方も含めて、会社と社長の間のお金の流れを確認しています。
どう分けるか:実務で決めておきたい4つのこと
法人名義のクレジットカードを作る
当事務所では、まず法人名義のクレジットカードを作っていただくようにお願いしています。
会社の支払いを会社のカードで払えば、社長が立て替える場面そのものが減ります。
最近のクラウドサービスは月額や年額のサブスク型が多く、クレジットカードでの支払いが前提になっているものも少なくありません。こうした支払いを社長個人のカードで続けていると、毎月立替が発生します。
立替精算は「現金しか使えない場面」だけにする
法人カードを使える支払いは、法人カードで払う。
立替精算になるのは、現金しか使えないお店などで支払った場合だけ、というルールにしておくと、立替の件数を抑えられます。
立て替えた分は、領収書を分けて、帳簿でも分かるようにする
それでも立て替えた場合は、次の2つをそろえておきます。
- 立替分の領収書は、ほかの領収書と分けて保管する
- 帳簿でも、未払金などの科目を使って「社長に返すべき金額」が分かるようにしておく
こうしておくと、いくら立て替えていて、いくら精算が済んでいるのかを、いつでも確認できます。
立替分は、給与の振込などと同じタイミングで定期的に精算する
立替分の精算は、その都度ではなく、給与の振込などと同じタイミングで、立替分を別途精算する形にしておくのがおすすめです。給与と立替分は、金額も帳簿の上でも分けて扱います。
タイミングを決めておくと、精算のし忘れや、何度も細かくお金を動かすことを防げます。
いつもと違う支出があれば、まず確認する
帳簿を確認していて、いつもと違う支払先や金額が出てきた場合、当事務所では、それが私的な支出ではないかを確認するようにしています。
責めるための確認ではなく、あとで説明が必要になったときに困らないようにするための確認です。気になる支払いがあれば、早めに声をかけていただくほうが、整理も楽になります。
複数の会社を経営していて、別の会社のカードで払ってしまったとき
会社を2つ以上経営している社長の場合、会社と個人だけでなく、会社と会社のあいだでもお金が混ざることがあります。
たとえば、同じカード会社で会社ごとにカードを作っていると、ある会社の支払いを、別の会社のカードで払ってしまうことがあります。
帳簿では「立て替えた」形にして直す
A社の出張のタクシー代を、B社のカードで払ってしまったとします。この場合は、次のように整理します。
- A社:本来の支払いをするべき会社なので、タクシー代を経費(旅費交通費)として計上します。相手の科目は「B社に返すお金」として未払金にします
- B社:カードで払ったのは自社なので、カードの支払いは帳簿に残ります。ただし自社の経費ではないので、「A社に立て替えたお金」として立替金にします
こうしておくと、経費は本来の会社に計上され、2つの会社の帳簿で同じ金額の貸し借りが向かい合う形になります。
カードの請求額と帳簿が合っていても、計上先が正しいとは限らない
カードで払った会社では、カードの請求額と帳簿の金額が合っているかを毎月確認します。ただ、この確認で分かるのは金額が合っているかどうかまでです。
A社のタクシー代を、間違えてB社の経費として計上していた場合でも、B社の帳簿にはカードの利用額どおりの金額が載るため、請求額とは一致します。どの会社の経費として計上するべきかは、請求額の照合だけでは分かりません。利用明細に加えて、領収書や利用目的なども確認し、どの会社の支払いなのかを判断する必要があります。
精算の方法と時期は、状況に合わせて決める
会社どうしの立替をいつ、どのように精算するかは、金額や件数、会社どうしの取引の状況によって決めます。
どの方法をとる場合でも、いくら立て替えていて、まだ精算していないのはいくらかが、両方の会社の帳簿で分かるようにしておくことが大切です。
取り違えに気づいた確認の方法
会計ソフトにカードの明細を自動で取り込んでいる場合、登録の仕方によっては、別の会社のカードの明細も一緒に取り込まれることがあります。
この事例では、取り込まれた明細のうち、どれがどの会社のカードの支払いなのかを区別して確認したことで、取り違えに気づくことができました。取り込み方や確認の方法は、会社ごとのカードの持ち方や会計ソフトの設定によって変わります。毎月の明細の見直しの手順は、マネーフォワードで毎月やること|小さな会社の月次の作業手順にまとめています。
当事務所では、複数の会社の会計データを突き合わせる作業にAIを使い、同じ日・同じ金額の支払いがどちらの会社に計上されているかを確認しています。そのうえで、どちらの会社の経費とするかは、税理士が内容を確認して判断します。
すでに混ざってしまっている場合は、元帳から確認する
すでに会社と個人のお金が混ざってしまっている会社を引き受けた場合、当事務所では、役員借入金・役員貸付金の元帳を必ず確認します。
見るのは、残高の大きさだけではありません。なぜ増えたのか、なぜ減ったのかを一つずつ確認して、どの支払いがどちらのお金から出ていたのかを整理していきます。
すでに混ざっている場合でも、役員借入金・役員貸付金の元帳を確認し、増減の理由を整理するところから始めます。そのうえで、これからの支払いのルールを決めていきます。
まとめ
- 会社と個人のお金を分けておくのは、あとで説明できる状態にするため
- 立替で経費を計上することが多い会社ほど、混ざりやすくなる
- まず法人名義のクレジットカードを作り、立替は現金しか使えない場面だけにする
- 立替分は領収書を分けて保管し、帳簿でも未払金などで分かるようにする
- 立替分は、給与の振込などと同じタイミングで、別途精算する
- 複数の会社のカードを取り違えたときは、本来の会社で経費にし、払った会社は立替金にする。カードの請求額が合っていても、計上先は明細・領収書・利用目的を見て確認する
- すでに混ざっている場合は、役員借入金・役員貸付金の元帳から、増減の理由を確認する
法人化したばかりの方は、最初に支払いのルールを決めておくと、その後の経理がずっと楽になります。
法人化の前後で経理がどう変わるかは、法人化前と法人化後で経理はどう変わる?最低限押さえるポイントにまとめています。経理をどこまで自分で行うかについては、税理士に頼む前に、自分で経理をどこまでやればいい?工程ごとの分け方もあわせてご覧ください。
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